歯レルヤ
牧師 横山順一

車に乗ってエンジンをかけると、毎度カーナビが「○月○日、今日は○○の日です」と答える。

語呂合わせとは言え、六月四日の虫歯予防デーなら昔から知っているが、先日のそれは「恋人の日です」だった。

え、恋人の日?なんじゃそれ?ってんで、早速ネットで調べてみた。六月十二日のことだ。

かつてポルトガルに「サン・アントニオ」なる修道士がいた。素晴らしく説教(愛のメッセージ)の上手な人で、多くの聴衆を魅了していたが、水腫により三十六歳の若さで召された。

彼の死を悼む人々が、いつしか「縁結びの聖人」としてあがめるようになっていった。

ポルトガルからの移民の多いブラジルのサンパウロ商業協会が、亡くなった六月十三日の前日を「恋人の日」と定め、かの地ではバレンタインデーより賑わう日だそうだ。

日本では、一九八八年から、それを取り入れた「全国額縁組合連合会」が恋人の日を宣伝している。ヨーロッパの風習を真似て、写真立てに恋人や家族の写真を入れてプレゼントしよう、という訳だ。

全然、知らんかったわ!

大体、全国額縁組合なる組織が存在することも驚きだ。いやはや、世界は広い。

ところで、以前通っていた歯科医院には、抜歯用のペンチを持った西洋の女性の画が壁に掛けられていた。

尋ねると、それは歯医者の女神、アポロニアだという。

キリスト教への迫害がひどかったローマ帝国時代、エジプトに住んでいたキリスト者の彼女は、異教徒による暴動が起きた時、棄教を迫られた。

歯を一本づつ抜く(もちろん、麻酔無しで!)拷問のあげく、火あぶりにされたが、最期まで音を上げなかったばかりでなく、信仰を捨てなかった。

それで何で「歯医者の女神」に至ったのか、よく分からない。少々痛くても彼女を見習って「我慢せぃ」ということなのか?

ともあれ存在を知らされて以来、歯科治療のたびにアポロニアを思い起こして恐怖に耐えるようになった(笑)。

カトリック教会の聖人に選ばれているアポロニアだが、その祝日は二月九日である。

二月九日は、肉(にく)の日だ。それを福(ふく)と読む人はいないと思っていたら、わざわざ新車のナンバーを「福来い」と込めて「二九五一」と指定した婦人がいた。

調子に乗って車ばかり使っているうちに、段々太って来たらしい。婦人の連れ合いさんが、神さまは「肉来い」と間違えたと投稿された。

爆笑ネタだが、神さまのせいではない。

同志社神学部の卒業生を励ます予餞会で、「君たちは、今後歯を大切にしなさい」とアドヴァイスした先輩がいた。

語る商売の人には、確かに歯は大事だ。見た目にも、発音の上でも。だけでなく、言葉を噛みしめよ、と。確かにそう思う。