No.70

「前人未踏の挑戦」

牧師 横山順一

 コロナ禍で、NHK朝ドラ「エール」が二か月ストップした。九月半ば、再開されてホッとした。

BSで見ているので、朝七時半からの放映だ。だいたい、この時間帯が朝食の時間でもある。

「エール」とは、応援の意味で使われるが、もともとは「大声で叫ぶ」ことを意味する。

エールが終わると、次の番組は「グレートトラバース3」(再放送)。主人公は田中陽希(三十七歳)という男性だ。

その名前もこの番組で初めて知ったのだが、プロアドベンチャーレーサーという職業もまたそうだ。

要するに自然を相手に格闘するプロフェショナルということなんだろう。

現在、彼は日本中から選んだ「三百名山」の登山に挑んでいる。既にこれまで「百名山」と「二百名山」を終了し、そこに更に百を足した三百名山が今回。だから「グレートトラバース3」だ。

見れば、どの山にも歴史があり、違う自然があり、味があることを教えられる。残念ながら山頂には神社ばかりで、教会はない(当たり前か)。

ただし、どこであっても山登りは大変なのだ。軽やかに歩ける一部のルートもあるが、おおかた急峻な崖であったり、急坂の連続であったり、見ているだけで死にそうになる。

本当は、この時間帯にこんなしんどい場面だらけの番組はやめていただきたい。朝ごはんを食べながら、思わずギャーというエールを発することしきりなのだ。

自分は座っているだけなのに、彼のはあはあ言う呼吸音を聞いていると、のんきに飯を食っていることに罪悪感さえ感じてくる。

楽に見られる、日野正平さんの「にっぽん縦断こころ旅」が過日戻って来てくれたので嬉しい。

だいたい高所恐怖症でインドア派の私には、山に登るという発想自体がない。

それなのに、田中さんは山だけで終わらないのだ。次へ移動する手段も自力である。すべて徒歩だ。

信じられないことに、海を渡る場面でも、自分でカヌーを漕ぐのだから、もはや同じ人間とは信じられない。

その上、一日のうちに二つの登山というスケジュールの日もある。プロか知らんが、楽しいか?

番組ではナレーターの岩井証夫(イワイ・アキオ)さんが、毎回「前人未踏の挑戦は続く」という名セリフで最後を締めくくる。

それを聞くごとに、だよね~、こんなしんどいこと誰もやらんよね~、と繰り返し思う。

だが、毎日見ているうち、田中さんも凄いけど、それを撮っているスタッフが凄いと感じるようになった。

何しろ彼らは、機材を持って伴走するのだ。主人公が懸命に鎖につかまっている時、それをカメラで撮っている人はどうしているのか心配になって来る。

ネットで調べたら、田中さんと同じような経歴を持つ人たちがカメラマンなどのスタッフを務めているそうで、納得。

八時間の登山でも、それを十五分で見せるのは、これまた凄い。一人を何人もが背後で支えている。 私たちの命もそうかもしれない。神による前人未踏の挑戦だ。