No.71

「アナザー・ストーリー」

牧師 横山順一

 散歩していたら、JRの高架下に一台のワンボックスが停められていて、荷台の周りに人が集まっていた。

てっきり移動販売車だと思って、何気に近寄ってびっくり。

白いわんこ(犬)の遺体が台車の上にあって、ちょうど車内に設置された火葬室へ入れられるところだった。

クルマは「移動ペット火葬車」だったのだ。気づいてみれば、真っ黒の車体だった。

家に帰ってすぐ、移動火葬車でネット検索したら、わらわら情報が出て来た。軽自動車もあり、一万円を切る費用で、自宅まで呼べるようだ。

ペットの数(それも犬と猫だけで)が、十五歳以下の子どもの数を上回ったと聞いたのは最近だった。(実際には、二〇一五年にとっくに上回っている)

数年前にはネコが犬を逆転したというニュースもあった。だいたい犬は五軒に一軒、ネコは八軒に一軒で飼われている計算だそうだ。

ネコを複数飼う人が結構いる。散歩を強いられる(?)犬より飼いやすいという理由で、数で犬を上回った。

ペットの多頭化は今も進んでいるので、今後ますます増える見込みだという。

専門のペットショップも幾つもあるが、ホームセンターにもペットコーナーがある。

それが目的で店に行った訳ではないのに、例えばそこでたまたま、あどけない子猫と出会い、うっかり目が合ったりしたら、もう「運命」だと確信する人もいる。

アルバイトで生計を立てているのに、三十万円もする「運命のネコ」をローンで買う、とてつもない決断をしてしまう人もいる。

そこまでして買ったのに、予想外の首切りに見舞われて、ローンはもちろん、餌代にも事欠いて、獣医に泣きついたという記事を読んだ。切ないことこの上ない。

人間は、人間だけでは生きられないとムツゴローさんが言っていた。

犬を抱っこして散歩している人を見かけるのも珍しくない。いったい誰の散歩なのか、野暮なことは言うまい。それほど大事なのだ。

ペットの葬儀を頼まれたという知人牧師の話を聞いたのは、もう何年前のことだろう。

私自身、犬ネコ両方を飼っていたので、ペットへの思いはよく分かるつもりだ。

だから、もしペット葬を依頼されたら、喜んで引き受けるつもりでいた。

しかし、だ。いつの間にか移動火葬車が席巻していた。この状況では、残念ながら教会の出番など期待できそうにない。

愛犬が死んだ時、保健所に頼んで、神戸のひよどりの施設で火葬してもらった。しょっちゅうは行けないが、葬儀で立ち寄るたびに黙祷している。

いずれネコにもその日が訪れることだろう。私は移動火葬車ではなく、ひよどりを選ぶつもりだ。

しかし、ペットどころか災害で家族の遺体の見つからない遺族もいる。満足のゆく葬儀を望むべくもない、貧しい国の人、戦乱の地に生きる人もいる。

ペットを思う心を、等しく人間に向けたいと心する。